「バックアップは取っています」で止まっていませんか

社内システムのデータについて聞くと、多くの会社が「バックアップは取っている」と答えます。ところが次に「では、昨日の夕方の状態に戻すには何時間かかりますか」と聞くと、答えが出てきません。取っているかどうかと、戻せるかどうかは別の話です。

実際に困るのは、サーバーが壊れたときだけではありません。誰かが一覧をまとめて消してしまった、間違えて上書き保存した、といった日常的な操作のほうがはるかに頻度が高く、そのときに「どこまで戻せるか」が問われます。

📌 バックアップまわりでよく起きること

  • 取得はしているが、戻す手順を誰も試したことがない
  • バックアップ自体が数か月前から失敗していたことに、必要になってから気づく
  • 元データと同じ場所に保存していて、一緒に失われる
  • 復旧できる人が1人しかおらず、その人が不在だと動けない

決めるべきは「どこまで戻るか」と「どれくらいで戻るか」

バックアップの設計は、頻度や保存先の話から入ると迷子になります。先に決めるべきなのは、失われても許容できる範囲止まっていられる時間の2つです。この2つが決まれば、頻度も保存先も自動的に決まります。

たとえば1日1回の取得なら、最悪で1日ぶんの入力が消えます。それが許容できない業務なら、頻度を上げるか、入力そのものを別に残す必要があります。逆に「1日ぶんなら手入力で復元できる」なら、1日1回で十分ということになります。正解は業務ごとに違い、費用もそこで変わります。

なお、クラウドサービスを使う場合の全体的な注意点は顧客情報をクラウドで管理するときの注意点にまとめています。この記事では、そのうちバックアップと復旧の部分だけを取り出して詳しく扱います。

決めるのは、この2つの幅をどこまで許すか 前回の取得 障害・誤操作 復旧の完了 失われる範囲 =どこまで戻るか 止まっている時間 =どれくらいで戻るか 取得の頻度で決まる 手順書と担当者の数で決まる

頻度を上げれば左の幅が縮み、手順を整えれば右の幅が縮む。費用のかかり方も別々

取得より先に、戻す側から決める

POINT 1

どこまで失ってよいかを、業務ごとに決める

全データを同じ基準で守る必要はありません。受注データは1時間ぶんも失えないが、社内の共有メモは1日ぶんなら許せる——このように分けて考えると、費用をかける場所がはっきりします。すべてを最高水準にすると、費用だけが膨らみます。

POINT 2

何時間で戻ればよいかを決める

半日止まっても業務が回るのか、1時間で戻さないと現場が止まるのか。ここが決まらないと、手順書が要るのか、待機の担当を置くのかも判断できません。止まったときに困る人の顔が浮かぶ単位で決めるのが現実的です。

POINT 3

誤操作の復元と、障害の復旧を分ける

この2つは頻度も対処もまったく違います。誤操作は週に何度も起きるが、必要なのは1件だけ戻す機能。障害は滅多に起きないが、全体を戻す作業になります。前者はゴミ箱や履歴で解決でき、後者はバックアップからの復元が必要です。混ぜて考えると、どちらも中途半端になります。

POINT 4

年に1回でいいので、実際に戻してみる

バックアップが失敗し続けていたことに、必要になってから気づくのが最悪の形です。本番とは別の場所に実際に復元してみると、ファイルが壊れていないか、手順書どおりに動くか、何時間かかるかが同時に分かります。年1回でも、やっているかどうかで差が出ます。

POINT 5

復旧できる人を2人以上にする

手順が1人の頭の中にあると、その人が不在の日に止まります。手順書を残し、少なくとも2人が読める場所に置きます。復旧の作業は強い権限を使うので、誰がその権限を持つかはアクセス権限の設計と合わせて決めます。

💡 最初に効くのは「3」と「4」

現場が本当に困るのは1件の誤操作で、会社が本当に困るのは戻せないバックアップです。この2つに手を打つだけで、実感できる範囲の不安はほぼ消えます。

取っているだけの状態と、戻せる状態の差

同じ「バックアップがある」でも、手順書があるか、実際に試しているかで、いざというときの結果はまったく変わります。

観点 取得しているだけ 手順書がある 復元テストまでやる
戻せるかどうか × そのときに初めて分かる △ 手順どおり動くかは未確認 ◎ 戻せることを確認済み
復旧にかかる時間 × 読めない △ 見積もりはできる ◎ 実測値で答えられる
取得失敗への気づき × 必要になるまで気づかない △ 通知があれば気づく ◎ 年1回は必ず分かる
担当者が不在のとき × 動けない ◎ 他の人が読んで進められる ◎ 実際にやったことがある
必要な手間 ◎ ほぼゼロ ◎ 書くのは一度きり △ 年に半日ほど

守る範囲を決めてから整える4ステップ

1
データを
重要度で分ける
失えないものと
作り直せるものへ
2
許せる幅を
2つ決める
どこまで戻るか
何時間で戻るか
3
頻度と保存先を
合わせる
元データとは
別の場所に置く
4
手順書を書き
1回戻してみる
かかった時間を
記録して次に使う

📌 保存先は必ず分ける

同じサーバー、同じアカウントの中に置いたバックアップは、元データを失う原因でまとめて失われます。別のサービス、別の場所、少なくとも別のアカウントに1つ置く。ここだけは費用対効果が飛び抜けて高い部分です。

取っているだけの場合と、戻せる状態にした場合

🟡 取得しているだけの場合
  • 必要になってから、戻せるかどうかを確かめることになる
  • 誤操作の1件を戻すのに、全体の復旧作業が必要になる
  • 復旧できる人が1人しかおらず、不在だと動けない
  • いつまで止まるのか、社内に説明できない
🟢 戻せる状態まで決めた場合
  • 復元を試したことがあり、戻せると分かっている
  • 1件の誤操作は履歴から現場だけで戻せる
  • 手順書があり、担当者以外でも進められる
  • 復旧の見込み時間を、実測値で答えられる

バックアップの目的は、データを保管することではなく業務を止めない、あるいは短時間で再開することです。取得の頻度や保存先は、その目的から逆に決まります。どこまで失ってよいか、何時間で戻ればよいか。まずこの2つを言葉にするところから始めてください。

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