稟議書が「今どこにあるのか」分からなくなっていませんか

設備の購入、新しい取引先との契約、採用、広告出稿など、一定以上の金額や重要度のある判断は、稟議書を作って上長や役員の承認をもらうのが一般的です。紙の稟議書は、起案者が印刷し、承認者の机を順番に回り、最後に総務がファイルに綴じるという流れで動きます。

この流れでは、稟議書が誰かの机の上で止まっていても、起案者からは見えません。承認者が出張や休みで不在なら、その間は何日でも止まります。急ぎの案件ほど、起案者が書類を持って承認者を探し回ることになります。

紙の稟議でよく起きること

  • 回覧の途中で止まり、どこにあるか分からない
  • 承認者が出張中で、決裁が1週間以上遅れる
  • 差し戻されたときに、どこを直せばよいか口頭でしか伝わらない
  • 過去に同じ内容の稟議を通したか、すぐに探せない
  • 金額によって誰の承認が必要か、起案者ごとに理解が違う

原因は、稟議書の「状態」が紙の現物にしか残っていないこと

紙の稟議書では、書類そのものが今の状態を表しています。どこまで承認が進んだかは押された印鑑で分かり、今どこにあるかは現物の置き場所で決まります。そのため、書類を手に取れる人にしか状況が分かりません。

電子化のねらいは、単に紙をPDFにすることではありません。「誰が起案し、今誰の承認待ちで、いつ決裁されたか」という状態を、書類とは別に記録して全員が見られるようにすることです。そうすれば、止まっている稟議に気づき、催促や代理承認の判断ができるようになります。

起案から保管までを1本の記録でつなぐ 起案 内容と金額を入力 ▶ 承認ルート 金額で自動に分かれる ▶ 決裁・保管 検索できる形で残る 回覧状況の一覧 「誰の承認待ちで何日止まっているか」を起案者も総務も見られる

書類の置き場所ではなく、記録で状態が分かるようにする

なお、経費精算の申請も同じように承認を回しますが、あちらは支払済みのお金を確認する作業が中心です。稟議はこれからお金を使う・契約するという意思決定そのものを扱うため、決裁の根拠や添付資料を後から探せることがより重要になります。経費精算側の設計は経費申請の確認作業を減らすワークフロー設計で解説しています。

稟議書を電子化するときに決めておく5つのこと

POINT 1

承認ルートを金額と種類で決める

「50万円未満は部長まで、50万円以上は役員まで」のように、誰の承認が必要かを金額と案件の種類で表にします。今の決裁規程(職務権限規程)があれば、それを元にします。ここが曖昧なまま電子化すると、紙のときと同じ迷いがそのまま残ります。

POINT 2

起案の書式を項目で分ける

自由記述だけの稟議書は、承認者が読み取るのに時間がかかります。目的・金額・支払先・時期・比較した選択肢を項目として分けておくと、承認が早くなり、後から検索もしやすくなります。

POINT 3

差し戻しの理由を記録に残す

差し戻しを口頭で伝えると、起案者が何を直せばよいか分からず、同じ理由で何度も戻ります。差し戻しの理由を記録に書き、修正の履歴も残すようにします。

POINT 4

不在時の代理承認を決めておく

承認者の出張や休みで止まらないように、代理で承認できる人と、その場合の記録方法をあらかじめ決めます。誰が代理で承認したかが残れば、後から確認できます。

POINT 5

決裁後の保管と検索を考えておく

決裁された稟議は、契約や支払いの根拠になります。年度・部署・金額・取引先で検索できる形で保管すれば、「前にも同じ稟議を通したか」がすぐに分かります。

印鑑をなくす前に社内規程を確認する

社内の決裁に印鑑を使うかどうかは、法律ではなく会社の規程で決まっていることがほとんどです。電子化する前に、決裁規程に「押印」と書かれていないかを確認し、必要なら「システム上の承認をもって決裁とする」と改めておくと、運用開始後に迷いません。

紙の回覧・メールとPDF・稟議アプリの比較

稟議の回し方を、状況の見えやすさや探しやすさで比べます。

観点 紙の回覧 メール+PDF 稟議アプリ
回覧状況の把握 × 現物を探す △ メールを追う ◎ 一覧で見える
承認ルート × 起案者の判断 × 宛先を手で選ぶ ◎ 金額で自動に分岐
過去の稟議の検索 × ファイルをめくる △ メールボックス次第 ◎ 項目で検索
導入の手間 ◎ なし ◎ すぐ始められる △ 最初にルート設計が必要

メールでPDFを回す方法は手軽ですが、承認の記録が各自のメールボックスに散らばるため、紙のときと同じく「今どこで止まっているか」が分かりにくいままです。転送を重ねるうちに、どれが最新の稟議書か分からなくなることもあります。

稟議の件数が月に数件程度であれば、共有の一覧表に「起案日・件名・金額・承認待ちの人」を書くだけでも状況は見えるようになります。件数が多い、承認の段階が3段以上ある、拠点が分かれているといった場合は、承認ルートと記録を持った稟議アプリにすると運用が安定します。承認できる人を役職ごとに正しく絞る考え方は業務アプリのアクセス権限を安全に設計する方法を参考にしてください。

稟議書を電子化する4ステップ

1
今の稟議の
流れを書き出す
誰が起案し
誰が承認するか
▶
2
承認ルートを
表にする
金額と種類で
分ける
▶
3
書式を
項目に分ける
目的・金額・
比較した案
▶
4
一部の部署で
試してから広げる
止まる箇所を
見て直す

最初は1種類の稟議から始める

購買、契約、採用、広告など、稟議の種類をすべて一度に電子化しようとすると、承認ルートの整理に時間がかかります。件数が多く、ルートが単純な稟議(たとえば備品の購入)から始めると、効果がすぐに見え、社内の理解も得やすくなります。

流れを書き出すときは、規程に書かれたルートだけでなく、実際には誰に先に相談しているかも聞き取ります。規程にない「事前の根回し」が決裁を止めている原因になっていることがあるからです。業務の流れを整理する方法は業務フロー図を作ってからシステム化する理由で紹介しています。

紙の稟議の場合と、電子化した場合

紙の稟議の場合
  • 回覧中の書類がどこにあるか分からない
  • 承認者の不在で決裁が止まる
  • 差し戻しの理由が口頭でしか残らない
  • 過去の稟議をファイルから探す
電子化した場合
  • 誰の承認待ちかが一覧で分かる
  • 代理承認で止まらない
  • 差し戻しと修正の履歴が残る
  • 金額や取引先で過去の稟議を探せる

稟議の電子化は、紙をなくすこと自体よりも、決裁の途中経過と過去の判断を誰でも確かめられるようにすることに価値があります。まずは今の承認ルートを表に書き出し、どこで止まりやすいかを確かめるところから始めてください。

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