「この案件、結局いくらかかったの?」に答えられますか
特注品や一品ものを作っていると、案件ごとに使う材料も手間も違います。見積もりは出したものの、実際にいくらかかって、いくら利益が残ったのかは、月末に帳簿を締めてもはっきりしない。そんな悩みの中心にあるのが「製造指図書」です。
製造指図書は、似た言葉の「製造指示書」と同じ意味で使われることもありますが、この記事では原価計算で原価を集める単位としての役割に絞って解説します。現場に作り方を伝える書類としての書き方は、製造指示書とは?書くべき項目と作業指示書・製造指図書との違いで詳しく扱っています。
この記事でわかること
- 製造指図書が原価計算の中で果たす役割
- 個別原価計算と総合原価計算の違い
- 指図書ごとに集める費用と、その計算の考え方
- Excel管理で原価がずれる理由と、記録の仕組みの作り方
製造指図書は、製造の命令書であり「原価を集める箱」
製造指図書(せいぞうさしずしょ)とは、何を・いくつ・いつまでに作るかを指示するために発行する書類です。発行のたびに番号(指図書番号)を振り、その番号で製造を管理します。
原価計算の場面では、この番号が費用を集計する単位になります。材料を出庫したとき、作業をしたとき、外注に出したときに「どの指図書の分か」を記録しておけば、あとから指図書ごとに費用を合計して、その製品の原価を出せます。
企業会計審議会が1962年に公表した「原価計算基準」でも、個別原価計算について次のように書かれています。
原価計算基準 三一(個別原価計算)より
- 個別原価計算は、種類を異にする製品を個別的に生産する生産形態に適用する。
- 個別原価計算にあっては、特定製造指図書について個別的に直接費および間接費を集計し、製品原価は、これを当該指図書に含まれる製品の生産完了時に算定する。
製造指図書の番号ごとに費用を集め、完成したときに製品原価が決まる
同じ項では、販売する製品だけでなく、自社で使う設備や工具の製作・修繕、試作、仕損品の補修なども、特定の指図書を発行して行う場合は同じ方法で原価を出すとされています。
個別原価計算と総合原価計算の違い
製造指図書が主役になるのは個別原価計算です。同じ製品をくり返し大量に作る工場では、一定期間の費用をまとめて生産量で割る総合原価計算が使われます。原価計算基準では、製品別の計算をこの2つを軸にした4種類に分けています。
| 項目 | 個別原価計算 | 総合原価計算(単純) |
|---|---|---|
| 向いている生産 | 種類の違う製品を個別に作る(受注生産・特注品・一品もの) | 同じ製品をくり返し連続して作る(見込み生産・量産品) |
| 原価を集める単位 | 製造指図書ごと | 一定期間(例:1か月)ごと |
| 原価が決まる時点 | その指図書の製品が完成したとき | 期間を締めたとき |
| わかること | 案件ごとの原価と利益 | 製品1個あたりの平均原価 |
| 向いている業種の例 | 金型・機械・建具・印刷・看板など | 食品・化学品・部品の量産など |
実際には、量産品でもロットごとに指図書を発行して管理する会社もあります。どちらを使うか、どう組み合わせるかは会社の生産のしかたや会計方針によって変わるため、決める際は顧問の税理士・会計士に相談してください。
指図書ごとに集める費用と計算の考え方
個別原価計算では、費用をその指図書のために使ったとはっきりわかる「直接費」と、複数の製品にまたがる「間接費」に分けて扱います。原価計算基準の考え方を、現場の記録に置きかえると次のようになります。
直接材料費:使った量 × 材料の単価
原価計算基準では「当該指図書に関する実際消費量に、その消費価格を乗じて計算する」とされています。出庫のたびに、品目・数量と指図書番号を記録しておくことが前提になります。
直接労務費:作業時間 × 賃率
「当該指図書に関する実際の作業時間又は作業量に、その賃率を乗じて計算する」とされています。日報や作業記録に、誰が・どの指図書に・何時間かかったかが残っている必要があります。
直接経費:実際にかかった額
外注加工費など、その指図書のためにかかった経費は、原則として実際の発生額をそのまま集計します。請求書を受け取ったら指図書番号とひもづけます。
間接費:一定の基準で割り振る
工場の光熱費や機械の減価償却費のように、特定の指図書に結びつけられない費用は、直接作業時間や機械の運転時間などの基準で各指図書に割り振ります(配賦)。原価計算基準では、原則として前もって決めた配賦率(予定配賦率)を使うとされています。基準の選び方で原価が変わるため、社内でルールを決めておきます。
製造指図書で原価を出すまでの4ステップ
流れそのものはシンプルです。ポイントは、すべての記録に指図書番号を付けることに尽きます。
逆に言えば、どこか1か所でも番号の書き漏れがあると、その費用は「どの案件のものかわからない費用」になり、原価がずれます。
紙とExcelで管理すると、原価がずれやすい理由
製造指図書を紙で発行し、出庫伝票や日報を手書きで集め、月末にExcelへ転記して集計している会社は少なくありません。この方法でも計算はできますが、次のような理由でずれが起きやすくなります。
- 日報や出庫伝票に指図書番号の書き漏れ・書き間違いがある
- 月末にまとめて転記するので、原価がわかるのは翌月以降
- 転記の手間が大きく、担当者しか集計できない
- 見積もりと実績の差を案件ごとに振り返れない
- 番号を選ぶ方式にして、書き間違いをなくせる
- 記録した時点で指図書ごとの費用が積み上がる
- 転記がなくなり、誰でも同じ画面で確認できる
- 完成直後に見積もりとの差がわかり、次の見積もりに活かせる
製造指図書の管理をアプリにするなら
仕組みを作るときに大事なのは、計算式よりも現場が番号付きで記録しやすいことです。
押さえておきたいポイント
- 出庫・作業記録の画面で、指図書番号を一覧から選べるようにする(手入力させない)
- 作業時間はスマホやタブレットで開始・終了を押すだけにする
- 賃率や間接費の配賦基準は、管理者が設定画面で変えられるようにする
- 指図書ごとに「見積額」と「実績額」を並べて見られるようにする
- 既存の会計ソフトに渡す集計は、CSVで書き出せるようにする
作業時間の記録をスマホに切り替える方法は紙の日報をスマホ入力へ変えるときの設計ポイントで、製造業向けの業務アプリ全体の考え方は製造業向け業務アプリの記事で紹介しています。
原価計算基準の引用は、企業会計審議会「原価計算基準」(1962年11月8日)の条文によります。実際の会計処理や原価計算の方法は、会社ごとの状況に合わせて税理士・会計士にご確認ください。
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