注文ごとの原価が、終わってみないとわからない
一品ものや受注生産の仕事では、同じ製品を大量に作る会社と違い、注文ごとに使う材料も手間もばらばらです。「この案件は結局もうかったのか」を確かめたいのに、材料・作業時間・外注費がそれぞれ別の帳票にあり、集め終わるころには次の見積もりが始まっている、ということがよくあります。
この記事では、注文ごとに原価を出す方法である個別原価計算について、国の「原価計算基準」の定義をもとに、総合原価計算との違いと計算の流れを整理します。
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この記事の情報について
- 定義と計算方法は、企業会計審議会が1962年(昭和37年)に公表した「原価計算基準」の該当箇所をもとにしています
- 実際の会計処理や税務の扱いは会社ごとに異なります。決算に使う原価の計算方法は、顧問の税理士・会計士にご確認ください
製造指図書ごとに、直接費と間接費を集めて原価を出す方法
原価計算基準では、個別原価計算を次のように定めています。
原価計算基準 三一(個別原価計算)より
- 個別原価計算は、種類を異にする製品を個別的に生産する生産形態に適用する。
- 特定製造指図書について個別的に直接費および間接費を集計し、製品原価は、これを当該指図書に含まれる製品の生産完了時に算定する。
かみくだくと、注文(製造指図書)1件ごとに「財布」を用意し、その注文のために使ったお金をすべてそこに入れていき、完成した時点で合計する方法です。基準では、自社で使う設備の製作や修繕、試作、仕損品の補修なども、指図書を出して行う場合はこの方法で計算するとしています。
直接費はそのまま指図書に、間接費は基準を決めて割り振る
ポイントは、どの費用にも「どの指図書のためか」という番号が付いていることです。番号の付いていない材料の出庫や作業時間が多いほど、個別原価計算は合わなくなります。
注文ごとに集めるか、期間でまとめて割るか
原価計算基準では、製品ごとの原価の計算を、単純総合原価計算・等級別総合原価計算・組別総合原価計算・個別原価計算の4つに分けています。大きく分けると、個別原価計算と総合原価計算の2つです。
| 項目 | 総合原価計算 | 個別原価計算 |
|---|---|---|
| 向いている生産 | 同じ製品をくり返し続けて作る | 種類の違う製品を1件ずつ作る |
| 原価を集める単位 | 一定の期間(たとえば1か月) | 製造指図書(注文)1件 |
| 原価の出し方 | 期間の原価を、できた数で割って1個あたりを出す | 指図書に集めた原価が、そのままその製品の原価 |
| 業種の例 | 食品・日用品など、同じものを大量に作る工場 | 機械・金型・治具・設備・印刷など、受注生産の仕事 |
| 日々必要な記録 | 期間ごとの材料・労務費・生産数 | 指図書番号つきの材料の出庫・作業時間・外注費 |
業種の例は代表的なものです。実際には、同じ会社の中で量産品は総合原価計算、特注品は個別原価計算と使い分けることもあります。
直接費は「賦課」、間接費は「配賦」で指図書に集める
原価計算基準では、指図書に集める費用を直接費と間接費に分け、集め方を変えています。
直接費:その指図書にそのまま入れる(賦課)
- 直接材料費:その指図書で使った材料の量 × 材料の単価
- 直接労務費:その指図書にかかった作業時間(または作業量)× 賃率
- 直接経費:外注加工費など、その指図書のために実際にかかった額
間接費:決めた基準で割り振る(配賦)
工場の電気代や機械の減価償却費、現場の管理者の給料のように、どの注文の分かを直接たどれない費用は、作業時間などの基準で割り振ります。基準では、部門ごとに予定配賦率(部門の間接費の予定額 ÷ 予定の配賦基準)を決めて配賦するのを原則としています。
計算の例(説明用の数字です)
| 費用 | 計算 | 指図書 No.101 の金額 |
|---|---|---|
| 直接材料費 | 鋼材 120,000円分を出庫 | 120,000円 |
| 直接労務費 | 作業時間 15時間 × 賃率 2,500円 | 37,500円 |
| 直接経費 | 外注のメッキ加工 | 30,000円 |
| 製造間接費 | 予定配賦率 1,800円/時間 × 15時間 | 27,000円 |
| 製造原価 | 上の4つの合計 | 214,500円 |
この指図書の売上が300,000円なら、製造原価との差は85,500円です。見積もりのときに考えていた原価と並べると、どこでずれたのか(材料か、時間か、外注か)が見えるようになります。
計算式より先に、記録が集まらないことでつまずく
個別原価計算の計算式そのものは難しくありません。現場でうまくいかない原因の多くは、指図書番号の付いた記録が集まらないことです。
よくあるつまずき
- 作業日報に作業時間はあるが、どの指図書の作業かが書かれていない
- 材料を棚から持ち出すときに、指図書番号を残していない
- 外注先の請求が月末にまとめて届き、どの注文の分かを後から調べている
- やり直しや手直しの時間が、元の指図書に入ったり入らなかったりする
- 集計表がExcelで、指図書が増えるたびに行と数式を手で足している
作業時間の記録の付け方は工数管理とは、外注費の追い方は外注管理とはでくわしく紹介しています。なお、仕損(不良)が出たときの費用の扱いも原価計算基準に定めがありますが、会社ごとの処理が分かれやすいため、顧問の税理士・会計士と決めておくのが安全です。
現場で入れた記録が、そのまま指図書ごとの原価になる
- 月末に日報を見ながら、指図書ごとの作業時間を転記する
- 材料の出庫票と外注の請求書を、注文ごとに仕分ける
- 原価がわかるのは完成から何週間もあと
- 作業の開始・終了を、指図書番号を選んでスマホで入力する
- 出庫や外注の発注も同じ番号で入るので、仕分けが要らない
- 作業中の指図書でも、今いくら使っているかがわかる
会計ソフトで決算の数字を作る仕組みとは別に、現場で「この注文はいま赤字か黒字か」を早く知るための仕組みとして作る会社が多いです。配賦率を毎月どう決めるかなど、計算のルールは会社ごとに違うので、今の集計表をもとに合わせて作るのが向いています。
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